蕎麦はなぜすすって食べる?すする理由と歴史を紹介
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和食・洋食問わず共通する食事のマナーがあります。
それは、「音を立てて食べること」です。
せっかくの美味しい料理も、食事音が聞こえてくるとげんなりしてしまうことも。しかし、日本では音を立てて食べてよい食べものとして「蕎麦」があります。
今回は、音を出してそばを食べる「すする」に着目してすする歴史やすする理由をご紹介します。
目次
そもそも蕎麦を「すする」食べ方とは
すする(啜る)とは、音を立てて汁や麺を口に吸い入れるという意味をもっています。
とくに蕎麦などの麺料理における食べ方です。
ラーメン発祥の国である中国、パスタ発祥の国であるイタリア、さまざまな麺料理がある韓国やベトナムにも、すする食べ方はありません。
そのため、音を立てて食べる「すする」食べ方は日本独自の食文化ともいわれています。
すする音を不快に感じる「ヌードルハラスメント」
日本では受け入れられている、蕎麦をすする音。
しかし外国からの観光者が増えた際、すする音に不快感を覚える「ヌードルハラスメント問題」が発生しました。
一般的に音を立てる、すする食べ方はマナー違反。そのため、日本独自の文化を知らない外国からの観光客にとって、すする食文化はなかなか受け入れられないようです。
口を開けて「くちゃくちゃ」と音を立てて食べる食べ方と、似たような不快感を覚えると考えられます。
しかし、日本独自の食文化とはいえ、日本人すべてがすする食べ方を受け入れているわけではありません。
日本人でもすする食べ方に不快感を覚える人がいます。その人たちにとって、すする食べ方はハラスメントのひとつとして認識されるようです。
もちろん、あくまで一部の意見であり、日本独自の食文化を大切にする意見もあります。
従って、すする食べ方は「いやがらせ」「人を困らせること」を意味するハラスメントには該当しないともいえるでしょう。
蕎麦をすする食べ方の歴史
すする食べ方はマナー違反のひとつです。
そうであるにも関わらず、蕎麦の食べ方として広まりました。
では一体いつから、どのような理由で、音を立てて食べる「すする食文化」が広まったのでしょうか。
まずは、すする食文化の歴史を解説します。とはいえ残念ながら、すする食文化がいつから始まったのかという記録は残っていません。
そこで注目するのが「落語」です。なかでも、江戸時代には行われていた「時そば」という蕎麦の屋台を舞台にした演目があります。時そばでは、扇子を箸に見立ててズルズルと蕎麦をすする仕草が有名です。
従って少なくとも江戸時代には、すする文化があったと考えられます。
さらに蕎麦は、江戸時代ごろ日本全国に広まった麺料理です。つまり、蕎麦が広まるとほぼ同時に、すする食文化も広まっていったとも考えられるでしょう。
蕎麦は、最初からすする食べ方を行う食べものだったといえますね。
参考:時そば/コトバンク
すする食べ方がうまれた理由「江戸っ子説」
すする食文化がうまれた理由は、歴史と同じように確かな記録が残されていません。そのため、当時の文化などからいくつかの説が浮上しました。
まずは、江戸っ子がすする文化を広めた「江戸っ子説」を紹介します。
蕎麦をすするのは江戸っ子の流行りの食べ方
江戸はさまざまな流行りをうみだして広める「大衆文化の宝庫」でもありました。
江戸で流行ったコスメ・言葉・髪型は、瞬く間に広がっていったそうです。そのひとつに「すする食べ方」があったのではないかと考えられています。
当時、うどんの後に広まった蕎麦は「新しい料理」でした。うどんよりも細い麺は、蕎麦つゆにつけることで、つるりと食べることができます。
この、つるりとした食べ方をより格好良く食べる食べ方が「すする食べ方」であり、「粋な食べ方」として流行り広まっていったという考えも。
また、江戸の蕎麦屋の客には男性が多かったともいわれています。その理由もあってか、音を立てて食べる「ワイルドな食べ方」がより広まっていったという考えもあるようです。
蕎麦は江戸っ子にとってのファストフード
落語の時そばで登場する蕎麦の値段は十六文。
現在の価値になおすと、250円ほどだそうです。手軽な値段は、庶民がよく口にする食べものだったと考えられます。
さらに江戸は商売が盛んな都市であり、仕事のあいだにさっと効率的に食べられるものが好まれていました。
安くてすぐに食べられる蕎麦は、まさに江戸のファストフードだったようです。
蕎麦は栄養価が高いため、現代のファストフードよりも健康的だったかもしれませんね。
ファストフードの立ち位置にあった、蕎麦。座ってゆっくりと食べるお店よりも、立ちながら食べる「立ち食い形式」やてんびん棒をかついで売り歩く「夜そば売り」のお店が人気だったと考えられています。
つまり当時の蕎麦屋は、机の高さが低いか、机すらないお店も多かったそう。
そのため、左手で食器を持ち右手で箸を持つため、口元まで運ぼうとするとどうしてもだらんと麺が伸びた状態になったようです。
ずるずると吸い込む必要があったことから、「すする食べ方」が定着したのではないかといわれています。
ちなみに、当時も音を立てて食べる行為はマナー違反でした。
それでもすする食べ方が広まったのは、もしかすると「さっと簡単に食べられる蕎麦は、マナーや上品さを気にしなくてもよい食べもの」と認識されていたのかもしれませんね。
参考:夜そば売り/日本麺類業団体連合会・全国麺類生活衛生同業組合連合会
蕎麦をたべるとき江戸の人々はみんな「すする食べ方」をしていたの?
蕎麦は江戸っ子のファストフード。
江戸時代のはじめ頃では、蕎麦は庶民の食べものとして親しまれていましたが、徐々に上流階級にまで広まっていきました。
とはいえ、上流階級の人々が庶民と同じように、マナーを気にしない「すする食べ方」をしていたかどうかは謎に包まれています。
島根県出雲では、出雲そばが茶会席に出されていたという記録があります。
しかし、大名や武士が集まる上品な茶会でずるずると音を立てて食べるのは、なんとなく場違いな印象を抱くのではないでしょうか。
もしかすると、上流階級の人々も「蕎麦はすする食べ方をする食べもの」と認識していたのか。
それとも、現代のように「すする食べ方をよく思わず、すすらずに食べる人」などさまざまだったのかもしれませんね。
以下の記事では、出雲そばが庶民から上流階級に広がっていった歴史を紹介しています。
出雲そばの歴史!島根県出雲への旅行前に要チェック
すする食べ方がうまれた理由「蕎麦のおいしい食べ方説」
蕎麦本来の美味しさを味わおうとした結果、すする食べ方になったという説があります。
以下は出雲そばの魅力を紹介した記事です。蕎麦の魅力・味わいを味わうために、なぜすする食べ方がベストだったのでしょうか。
ふたつの説を紹介します。
【必見!】八割そばと十割そばの魅力とは? お買い物のポイントを紹介
蕎麦の香りをより味わうための食べ方
茹でる食べ方が一般的になる以前、蕎麦はセイロで蒸されて食べられていたと考えられています。
蒸したときに漏れる蒸気は、蕎麦の香りを存分に感じられたそう。
しかし茹でる調理では、蕎麦の香りは鼻ではわかりにくい、ひどく繊細なものになってしまったようです。とくに冷たい蕎麦は、においが立ちのぼりません。
そこで、空気とともにすすってみたのではないかといわれています。
すする食べ方は、麺といっしょに空気を吸い込む食べ方です。食べるときに空気を吸い込むことで、口に蕎麦の香りが広がり、鼻から香りが抜けていきます。
つまり、すすることで蕎麦の香りが堪能でき、蕎麦のうまみをよく感じられる。そうして、すする食べ方が一般的になったという説があります。
「蕎麦の麺が汁により絡む」食べ方
すする食べ方をすることで、汁が麺により絡んで食べられるといわれています。汁と麺を同時に味わうために、空気を吸い込むような「すする食べ方」になったそう。
また、日本ではラーメンやうどんにもすする食べ方を行います。日本の蕎麦・ラーメン・うどんは、麺と汁が一体化した料理です。
一方、本場中国のラーメンは麺と汁は別物の料理。
そのため、日本では麺と汁を同時に食べるためにすする食べ方をして、中国ではすする食べ方をしないと考えられます。
蕎麦とすする食べ方のまとめ
すする食べ方は、蕎麦本来の美味しさを味わうためにうまれた説があることがわかりました。
今までですすって食べたことがない人は、一度試してみてみるのもよいかもしれませんね。
とはいえ、すする食べ方を必ずする必要もなく、派手で大きな音を立てるのがよいわけでもありません。さらに、すする音を不快に感じる人もいます。
もともと蕎麦は庶民が気軽に食べられる、美味しい食べもの。
無理に音を出そうと気負わず、それぞれが美味しく味わうことが大切ですよ。
蕎麦の風味をより味わいたいのであれば、十割そばや八割そばのような蕎麦の割合が多い蕎麦がおすすめです。
すする食べ方が苦手だという人にも、蕎麦の風味が堪能できるでしょう。